的確な答えが導き出せなくなる
意志決定や判断、注意、集中などをつかさどる脳の領域が「前頭前野(ぜんとうぜんや)」です。
前頭前野は、おでこの後ろにある「前頭葉」の中にあって大脳全体の30%を占める要所で、コミュニケーションを取る、学習を行うなど私たちが人間らしく生きるために働いています。この働きから、前頭前野は「脳の司令塔」とも呼ばれています。
前頭前野は動物の大脳にもありますが、大脳に占める割合はネコが3%、イヌが7%で、人間に最も近い動物のチンパンジーでも17%程度とされます。
前頭前野は、年を取るとともに衰えてきます。例えば、固定された人づきあいしかなかったり、毎日同じような生活をくり返して新たに覚えることが少なかったりする人に衰えが目立ちます。
前頭前野が衰えてくると、物忘れが増え、冷静な判断ができず、的確な答えを導き出せなくなってきます。「夕食の献立作りに迷
う」「スーパーで買うものが決まらずウロウロする」「旅行先(外出先)が決まらない」などに思い当たる人は、前頭前野の衰えが進んでいる可能性があります。
また、「買い物で大きくてかさばるものを先に買う」「先のことを全く考えないで目先のことだけ行い、行きづまってしまう」など明らかに要領が悪い行動を取ってしまい、最終的に後悔するような人は、前頭前野がすでに衰えていると考えられます。
物忘れ、見落としやうっかりミスが増える
前頭前野が衰えてくると性格も変化してきて、「せっかち」になったり、その反対に「のんき」になったりします。
せっかちとは、落ち着きがなく、イライラしやすくて怒りつぽい性格で、冷静さが失われて「見落とし」が多くなりまけ。「買い物の途中に値札の0を一つ見落とす」「運転中に止まれの標識を見落とす」などが見落としの一例です。
値札の見落としならすぐに間違いに気づき、少し恥ずかしい思いをするだけですが、標識の見落としが起こったら思わぬ事故につながるので注意が必要です。
一方、のんきとはあまり気が乗らず、ぼんやりとした性格で、特に「うっかりミス」が多くなります。「カップにお茶を注ぎすぎてこぼす」「シャンプーではなくリンスで洗髪する」といった凡ミスが多くなります。
ちなみに、見当識障害(見当識とは、日時や場所など基本的な状況を把握する力のこと)が起こる認知症は、前頭前野の衰えが重大原因で、前頭前野を活性化すれば改善が見込めるとする脳科学者がおおぜいいます。
注意深く漢字を見て判断する必要がある
以上のような前頭前野の衰えを防ぐためにおすすめなのが、「漢字拾い」です。
問題では、5つの漢字が不規則に並んでいて大きさもそれぞれ違っています。このうち、2文字か3文字の漢字を
つなげると都道府県名が出てきます。
たった五つの漢字から都道府県名を答えるだけなので簡単そうに思えますが、実際やってみるとそうでもありません。文字の大きさが違って目立つ漢字と目立たない漢字があり、しかも不規則な並び方によって、都道府県名が思い浮かばず、別の言葉ができることもあります。
注意深く漢字を見て、どの漢字が都道府県名を構成しているかを冷静に判断する必要があります。そのことが、前頭前野の活性化につながるのです。
前頭前野を活気づけるのに役立つ
例題を出します。文字は「川・奈・山・食・香」です。バッと見ると、「神奈川」と答えそうですが問題には「神」がありません。地名にくわしい人は、伊豆の「川奈」と答えるでしょうが、都道府県名ではないため、はずれです。
そうして判断していった結果、「香川」を導くことができます。
答えを導くことができたら、はっきりと声に出しましょう。文字を見て声を出して読み上げるのは、前頭前野を活気づけるのに役立つことが知られています。
漢字拾いにおける漢字の配列や大きさは、何回かのテストを踏まえたうえで、わざと間違いやすく、答えを導きにくいように作ってあります。作った問題は、施設にいる高齢者など約200人にやってもらっており、前頭前野の活性化、具体的には注意力・集中力・思考力・判断力の向上に一役買っています。