見るだけで不思議な感覚や驚きを体験
いくつになっても脳の若々しさを保ちつづけたいと願う多くの人の間で、いわゆる「脳トレ」が人気です。脳トレとは、さまざまな方法で脳を刺激し、脳の活性化を図るトレーニングのことです。
こうした脳トレでは、簡単な計算問題やパズルを解いたり、手指を動かしたりといった方法がよく用いられますが、この記事で紹介するのはもっと簡単な方法で行える脳トレです。
その方法とは、ズバリ、「だまし絵」を眺めるだけの「だまし絵脳トレ」です。
だまし絵とは、見るだけで不思議な感覚や驚きなどが感じられる絵や図形のことで、例としては「錯視図」や「隠し絵」などがあげられます。
錯視図とは、その名のとおり、錯視効果がある絵や図形です。背景や周囲に描かれた図や模様によって、図形の形・大きさ・色を実際と違って知覚したり、ないはずの物が見えたり、逆にあるはずの物が見えなくなったりします。
また、その絵を手に持って動かすことで、描かれた絵がまるで生きているように、揺れたり波打ったりして見えるものもあります。
隠し絵は、見る方向や角度、距離を変えることで、それまで知覚できなかった絵が見えたり、描かれた絵とその地の部分を反転させると新たな絵が浮かび上がったりする絵のことを指します。
活発に働いている脳の部位が特定できる
こうしただまし絵を眺めているとき、脳ではどのようなことが起こっているのでしょうか。
諏訪東京理科大学の研究チームは、「多チャンネルNIRS」という、脳活動を調べる機器を用いて、だまし絵の一種である錯視図を見ているときの脳の状態について調べました。
多チャンネルNIRSを頭に装着すると、そこから照射される近赤外線の働きによって、脳の中核となる大脳新皮質の酸素の増減量が計測できます。
脳は活発に働いている部位ほど多くの酸素を必要とするため、その部位には多くの酸素が送られ、神経細胞への酸素の供給も盛んになります。つまり、この機器で脳内の酸素の増減量を測定すれば、活発に働いている脳の部位が特定できるというわけです。
さて、この機器を使って、錯視図を見ているときの脳の活動を調べると、脳の上部に当たる「頭頂葉」と、脳の前部に当たる「前頭葉」が活性化しているとわかりました。
不思議さや驚きの感覚が脳を活性化
頭頂葉は、立体や奥行きを把握したり、体の内外に加わる刺激を総合的に感知したりするさいに働くほか、数学的・言語的能力にもかかわる部位です。一方、前頭葉は、考えたり話したり興味を抱いたりするなど、「人間らしい」行動や感情をつかさどっています。
錯視図を眺めると、「描かれているものと認識しているものがなぜか違う」という不思議な感覚が得られます。このとき、奥行き感が妙にいじられたり、実際の図形と認識している図形の違いを確かめたりするために、頭頂葉や前頭葉が刺激され、活性化するのだと考えられます。
この試験では、錯視図で示された図形の形や大きさが、本当は同じだと指摘されて驚いたり納得したりしたときに、脳全体が活性化することも確認できました。
これは、テレビなどでよく紹介されている「AHA体験(今まで認識できなかったことを突然認識するひらめきの感覚)」の一種で、一瞬のうちに脳全体に刺激が行き渡るといわれています。
リラックスして絵を眺めるだけ
だまし絵脳トレで得られる具体的な脳への効果については、詳細な研究が行われていないので、はっきりとしたことはいえません。
ただ、人が予期せぬ事態や簡単に乗り越えられないハードルにぶつかると、認知の連鎖が緩められ、創造力が高まることが知られています。このことから推測すると、錯視図の不思議さや、隠れた絵を見つける困難に直面することで、創造力やひらめきカの養われることが期待できるでしょう。
だまし絵脳トレは、リラックスした状態でこれらの絵や図形を眺めるだけです。好奇心いっぱいにその不思議さや驚きを楽しんでください。ちなみに、だまし絵はトリックアートという名前でも呼ばれ、それらを集めた書籍が多数出版されています。
だまし絵脳トレを行うさいには、一点、注意が必要です。錯視図を長時間眺めていると、車酔いに似た気分の悪さや疲れ目を感じることがあります。こうした体調の変化を感じたら、だまし絵脳トレは中止してください。しばらく目を休めれば、自然と回復するでしょう。